見出し画像

豊岡市と精華町の事例から学ぶ~官民共創のヒント

こんにちは!
チーム愛媛DX推進支援センター長の渡部久美子です。

今回の記事では、2023年度「官民共創分野ベースアップ研修(※)」のうち、第3・4回研修で開催したオンラインセミナーの模様をご紹介します。


(※)ベースアップ研修とは
チーム愛媛DXでは、市町の多様なニーズに応えるために
・ボトムアップ
・ベースアップ
・スキルアップ
・個別対応
の計4ステップで研修を展開しています。2023年度のベースアップ研修は【官民共創】【デザイン思考】の2分野でオンライン開催するもので、DX推進の機運醸成や認識の共有を目的としています。

【官民共創】第1・2回については、小田専門官の活動レポート記事もご覧ください

人口減少の根本原因に切り込む│兵庫県豊岡市

第3回研修では、兵庫県豊岡市の前市長・中貝宗治氏をゲスト講師にお招きし、「人口減少の根本原因を探る・なぜジェンダーギャップの解消が必須なのか~地方創生の現場から事実に学ぶ」をテーマにお話いただきました。

中貝宗治 氏
一般社団法人豊岡アートアクション理事長/前豊岡市長
1978年兵庫県に入庁。兵庫県議会議員(3期)を経て、2001年7月から21年4月まで豊岡市長を務める。コウノトリをシンボルとするまちづくりや豊岡演劇祭の開催など、人口減少の中で輝きを放つ政策で知られ、21年には一般社団法人豊岡アートアクションを設立。「深さを持った演劇のまちづくり」を進めている。
セミナー企画者:小田専門官より
人口減少の本質的な原因を追求し、世界から注目される町となった兵庫県豊岡市。「なぜ人口が減っているのか?なぜ町から若者が出ていくのか?どういう対策を打てばよいのか?」…突き抜けた戦略で価値を創造した中貝さんの取り組みから、わがまち町の地方創生と人口減少対策のヒントを探ってみませんか。

【講演要旨】

中貝氏:人口減少の根本理由は「若い夫婦の絶対数が減ってきているから」です。

10代の転出超過数に対して20代の転入超過数が占める割合「若者回復率」を見てみると、豊岡市の回復率は35.3%(2020年までの5年平均)。65%の赤字を意味しますが、特に大きな問題となるのは男女の差です。男性41.6%に対して女性は28.4%と、若い男性が余る状況になっています。

これは今に始まったことではありません。若い人たち、とりわけ若い女性たちが帰ってこない。なぜか。私は豊岡市に必要なのは「若者、特に女性にとって突き抜けた価値(魅力)の創造」だと考え、「小さな世界都市」をまちのビジョンに掲げました。

ビジョン実現のために整備したのが、①環境都市・豊岡エコバレーの創造 ②大切なものを守り、育て、引き継ぐ ③深さをもった演劇のまちの創造 ④ジェンダーギャップの解消ーという4つのエンジンです。

①では、コウノトリを豊岡のシンボルとして取り組みを進めました。「環境で飯が食えるのか」という批判もありましたが、2004年に環境経済戦略を策定。環境と経済が共鳴する地域の創造を目指し、農薬に頼らない「コウノトリ育む農法」の確立や普及、環境関連の企業誘致などに取り組みました。

②豊岡市の代表的な基盤産業は、城崎温泉を中心とする観光宿泊業です。2019年までの8年間に、外国人宿泊客数は45倍に増加。メールマーケティングを強化したこともあり、現在もコロナ前を上回る勢いでインバウンドが回復しています。

③の演劇は、現存する近畿最古の芝居小屋「永楽館」や、赤字施設をリニューアルした「城崎国際アートセンター」を中心に広げていきました。アートセンターは演劇とダンスに特化した日本最大の滞在型活動拠点で、世界中から一流アーティストが続々とやってきます。

観光の閑散期に演劇を生かす取り組みも進んでおり、昨年の豊岡演劇祭には約2万2千人が参加しました。小さなまちは演劇の熱気に包まれます。

2021年には芸術文化観光専門職大学が開学しました。芸術文化は、多様性を受け入れる風土をはぐくみ、まちの寛容性を高めます。豊岡は芸術文化の消費地から創造の地へと変わり、多くの人を惹きつけるようになりました。

ジェンダーギャップの最たる問題は、公正さの欠如です。私たちは、地域の女性たちが声を上げることなく、黙ってスーッと出ていく現象を「静かな反乱」と呼んでいます。ジェンダーギャップの解消は、全国の自治体で地方創生戦略の標準装備とするべきです。

豊岡市の場合、まずは働く場に焦点をあてた取り組みから始めました。ワークイノベーション戦略を策定し、ジェンダーギャップ対策室を開設。人事担当者や地域のリーダー、教員などを対象とするセミナーを開催するなどし、民間の103事業所も豊岡市とともに取り組みを進めています。

理想の未来へ向け、どのように政策を展開するべきか。ジェンダーギャップの問題を置き去りにする自治体が、世界で輝けるはずがありません。理想と現実との差を埋めるために必要なのが戦略です。経済・文化・社会的に「突き抜けて面白いまち」。これを本気で創ろうとする所に人は集まり、地域もよみがえっていくのだと思います。

~Q&Aより~
小田専門官:
中貝さんの本質は、戦略家の部分にあると思います。どうして自然や演劇をテーマにまちづくりを進めようと思ったのですか?
中貝前市長:
地域をよく観察し、元々ある資源は何でも活用しようと考えました。根底にあるのは人口減少への危機感と「誇りを取り戻してエネルギーにしたい」という思いです。戦略において大切なのは、最終目的地のイメージをはっきり定めることと、「この空にコウノトリが飛んだらどんなに素敵だろう」という情熱です。行政だけで解決できる時代ではなく、外部との関わりを恐れずに動いていただきたいですね。

新しいカルチャーで価値を創出│京都府精華町

第4回の研修では「現状を打破するため職員に必要なマインドとは~京都府精華町のふるさと納税への取り組み事例」をテーマに、京都府精華町総務部財政課・課長の西川和裕氏よりお話いただきました。

西川和裕さん
京都府精華町総務部財政課課長
1995年京都府精華町へ入庁し、税務・財政・企画調整の各課を経て2019年から財政課長。クラウドファンディングなどの新しい取り組みを展開・実現するイノベーション人材として、県内外の関係者から注目されている。
セミナー企画者:小田専門官より
2017年のふるさと納税の流出額が、全国ワースト町村と報道された京都府精華町。西川さんらによる行政の枠組みを超えた創意工夫により、その後の4年間で寄付金額を260倍に増やすことに成功しました。ふるさと納税に限らず、西川さんのお話からは新しい施策を実現するために必要なスキルやマインドを学んでいただけると思います。

【講演要旨】

精華町の施策を語る上で外せないのが、広報キャラクター「京町セイカ」です。2014年の重要施策「戦略的広報の推進」により作成した萌えキャラで、私は当時の広報担当者でした。いわゆる「美少女キャラ」を展開している自治体は珍しく、その少なさに着目して攻めようとしたのがきっかけです。

京町セイカの役割は、各施策の連携を図る「つなぎ役」です。町の総合戦略にも、「キャラ活用により戦略的・効果的な情報発信ができるよう環境を整備する」という町独自の視点が盛り込まれています。

2015年にはふるさと納税とコラボし、合成音声の制作を呼びかけるクラウドファンディングを実施しました。「目標額が集まらなければ成立しない」というAll or Nothing型の取り組みで、結果が出るまでとても緊張したのを覚えています。

このような取り組みを進める中で報道されたのが、「ふるさと納税の全国ワースト町村」というニュースでした。

観光地や特産品に乏しい自治体にとって、ふるさと納税は不利な制度です。「あえて返礼品で誘導する形式は採らない」というスタンスをとっていたものの、継続的な実質収支のマイナスが予測される以上、何もしないわけにはいきません。ついに「寄付者の気持ちが第一だが、返礼品も手段の一つ」と考え方を変え、2019年から取り組みを進めることになりました。

対応に迫られ、財政課で立案した基本方針には、返礼品を寄付獲得の主軸としない「応援の気持ちに応える寄付募集」を掲げました。今では当たり前となったクレジット決済やキャラグッズの開発など、各課が連携してさまざまな施策を展開した結果、京町セイカが呼び掛けるクラウドファンディングには、目標額の2倍以上にあたる金額が集まりました。

実質収支(交付税措置を含む)は2022年にプラスに転じたものの、見方によっては依然として赤字幅が大きく、まだまだ十分とは言えません。制度的にも不利な立場のままです。

ただ、これまでの取り組みの成果は確実に感じています。「無」から「有」を生み出せること。通常では手の届かない地域や、他の自治体がいない分野で勝負できること。ふるさと納税の「やればやるほど結果が出る」という大前提を理解した上で、最も大切なのは「町を応援してもらうという気持ち」だと思います。

何が「きっかけ」となるかは、自治体によって千差万別です。精華町の事例が、これから新しい施策に取り組まれる方の参考となれば幸いです。

~Q&Aより~
小田専門官:
萌えキャラの採用に対して、庁内の反発はありませんでしたか?また、クラウドファンディングのスタート時に苦労はありませんでしたか?
西川氏:
学研都市内に位置する自治体ならではの新しいものを受け入れる気風があり、障害はそれほど感じませんでした。寄付募集の手法は、民間キャラを運営する方に教えていただきました。外部との連携では、イベントを通じてキャラがコラボしたり、時には質問されてアドバイスしたりすることも。最初の始め方さえ分かれば、あとは自分たちで応用できるようになります。

参加者の声

セミナー後のアンケートでは、第3・4回ともに参加者の96%を超える方から「非常に意識が変わった」「少し意識が変わった」という前向きな回答をいただきました。

感想欄には「地方にこそジェンダーギャップ解消が必要と痛感」「ふるさと納税で自分の自治体とは真逆の取り組みをしていて面白かった」等の新たな気づきや、「外部の視点を取り入れたいが組織風土的に難しい」などの課題も寄せられており、今後の事業推進のヒントとして生かしていただければと思います。

センターより

今回、官民共創分野で企画した職員のベースアップを目的とした本研修では、他の自治体での事例を学ぶという企画で開催を行いました。
首長さんや職員さん同士だからわかること、理解できることも多かったと感じています。

官民共創はゴールではなく、通過点であると思います。チーム愛媛においても他の自治体の努力や汗の結晶を吸収し、更に交流を深めることで、相互の事業推進や業務効率化が推進されるようサポートしていきたいと思います。

チーム愛媛DX推進支援センター長 渡部久美子🌻